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HCDにおけるユーザビリティとUX・デザイン思考の関係性

HCD(人間中心設計)を実践する上で、ユーザビリティ、ユーザエクスペリエンス(UX)、デザイン思考は密接に関わる重要な概念です。これらの違いと統合的な活用方法を理解することで、より効果的な製品・サービス設計が可能になります。

ユーザビリティとは

ISO 9241-11による定義

ユーザビリティは「特定の利用状況において、特定のユーザーによって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効性、効率性および満足度の度合い」として国際標準で定義されています。

ニールセンの5要素

1. 学習しやすさ(Learnability)
   → 初回利用時の習得の容易さ

2. 効率性(Efficiency)
   → 慣れたユーザーの作業効率

3. 記憶しやすさ(Memorability)
   → 再利用時の操作想起の容易さ

4. エラー(Errors)
   → 発生頻度と回復の容易さ

5. 満足度(Satisfaction)
   → 主観的な使用感

測定方法の例

定量的指標:

定性的指標:

ユーザエクスペリエンス(UX)

ユーザビリティとの違い

UXはユーザビリティを包含する、より広範囲な概念です。

## UXの時間軸

利用前:
- ブランド認知
- 期待値形成
- 第一印象

利用中:
- 操作性(ユーザビリティ)
- 感情的反応
- 価値実感

利用後:
- 満足度
- 再利用意向
- 推奨意向

ISO 9241-210におけるUX定義

「製品、システム、サービスの利用や利用予定から生じる人の知覚や反応」として定義。ユーザーの認知的・感情的・身体的反応すべてを含みます。

UXの構成要素

Peter Morvilleのユーザエクスペリエンスハニカム:

デザイン思考とHCDの関係

デザイン思考の5ステップ

1. 共感(Empathize)
   → HCD: 利用状況の理解と明示

2. 定義(Define)
   → HCD: ユーザー要求事項の明示

3. 発想(Ideate)
   → HCD: 設計解決策の作成(初期段階)

4. 試作(Prototype)
   → HCD: 設計解決策の作成(具体化)

5. 検証(Test)
   → HCD: 要求事項に照らした設計の評価

思考特性

人間中心: ユーザーニーズを起点とする問題解決 反復的: 失敗から学び改善を重ねるマインドセット 協働的: 多様な専門性を統合するアプローチ

3つの概念の統合的活用

実践フレームワーク

段階1: 共感・理解
- デザイン思考: ユーザー観察、インタビュー
- HCD: 利用状況の明示
- 成果物: ペルソナ、ユーザージャーニーマップ

段階2: 定義・要求分析
- デザイン思考: 問題の再定義
- HCD: ユーザー要求事項の明示
- 成果物: ユーザーストーリー、要求仕様書

段階3: 発想・設計
- デザイン思考: アイデア発想
- HCD: 設計解決策の作成
- 成果物: ワイヤーフレーム、プロトタイプ

段階4: 評価・改善
- デザイン思考: ユーザー検証
- HCD: 設計の評価
- 評価軸: ユーザビリティ指標、UX評価

成功事例パターン

ECサイトの改善例:

  1. 共感: 購入プロセスでの離脱要因調査
  2. 定義: 「簡単に購入完了したい」ニーズの特定
  3. 発想: ワンクリック購入、ゲスト購入の検討
  4. 試作: プロトタイプ作成とA/Bテスト
  5. 検証: コンバージョン率とユーザビリティ評価

よくある誤解と正しい理解

誤解1: ユーザビリティ = UX

× 誤った理解: 使いやすくすればUXは向上する
○ 正しい理解: ユーザビリティはUXの重要な要素の一つ

誤解2: デザイン思考 = 見た目のデザイン

× 誤った理解: ビジュアルデザインのための手法
○ 正しい理解: 問題解決のための思考プロセス

誤解3: HCD = ユーザーの言う通りに作る

× 誤った理解: ユーザーの要望をそのまま実装
○ 正しい理解: ユーザーニーズの本質を理解し最適解を設計

実践のベストプラクティス

段階的アプローチ

フェーズ1: 基盤づくり

フェーズ2: 調査・分析

フェーズ3: 設計・検証

チェックリスト

□ ユーザー調査は多様な手法を組み合わせているか
□ ユーザビリティとUXの両方を評価しているか
□ デザイン思考の各段階で適切な成果物を作成しているか
□ 定量・定性の両面から評価を行っているか
□ 反復的な改善サイクルが機能しているか

問題集(AI生成)

【概念理解編】基本的な違いの把握

問題1 ユーザビリティとUXの関係として最も適切なものはどれか。

A. ユーザビリティとUXは同じ概念である

B. ユーザビリティはUXの一部である

C. UXはユーザビリティの一部である

D. ユーザビリティとUXは無関係である


問題2 ISO 9241-11で定義されるユーザビリティの3つの構成要素はどれか。

A. 学習性・効率性・満足度

B. 有効性・効率性・満足度

C. 使いやすさ・見つけやすさ・望ましさ

D. 機能性・操作性・デザイン性

【デザイン思考編】プロセスの理解

問題3 デザイン思考の「共感(Empathize)」フェーズに該当する活動はどれか。

A. ブレインストーミングでアイデアを発想する

B. プロトタイプを作成して機能を確認する

C. ユーザーインタビューでニーズを把握する

D. A/Bテストで効果を測定する


問題4 デザイン思考とHCDプロセスの対応として正しいものはどれか。

A. 共感 → ユーザー要求事項の明示

B. 定義 → 設計解決策の作成

C. 発想 → 利用状況の理解と明示

D. 検証 → 要求事項に照らした設計の評価

【測定・評価編】指標の理解

問題5 ユーザビリティの定量的評価指標として適切でないものはどれか。

A. タスク完了率

B. 平均タスク時間

C. ブランド認知度

D. エラー発生率


問題6 SUS(System Usability Scale)が測定するものはどれか。

A. システムの技術的性能

B. ユーザーの主観的満足度

C. タスクの完了時間

D. エラーの発生頻度

【実践応用編】統合的な理解

問題7 ECサイトでユーザーが「商品は見つけられるが購入手続きが複雑」と感じている場合、主に改善すべき要素はどれか。

A. 情報アーキテクチャ(見つけやすさ)

B. ユーザビリティ(使いやすさ)

C. ビジュアルデザイン(望ましさ)

D. コンテンツの信頼性(信頼性)


問題8 HCDプロセスにおいて、ユーザビリティテストを実施するのは主にどの段階か。

A. 利用状況の理解と明示

B. ユーザー要求事項の明示

C. 設計解決策の作成

D. 要求事項に照らした設計の評価

【総合理解編】概念の統合

問題9 「デザイン思考はHCDプロセスを実践するための問題解決アプローチである」という説明が示す関係性として最も適切なものはどれか。

A. デザイン思考とHCDは競合する手法である

B. デザイン思考はHCDプロセスの実行方法論である

C. HCDはデザイン思考の一部である

D. デザイン思考とHCDは無関係である


問題10 UXの向上を目指すプロジェクトで、ユーザビリティだけでなく他の要素も考慮する理由として最も適切なものはどれか。

A. 開発コストを削減するため

B. プロジェクト期間を短縮するため

C. 利用前から利用後まで包括的な価値を提供するため

D. 技術的な制約を回避するため

まとめ

HCDにおけるユーザビリティ、UX、デザイン思考は、それぞれ異なる役割を持ちながら相互補完的に機能します。

ユーザビリティ: 製品の「使いやすさ」を科学的に評価・改善 UX: 利用の全体験を通じた価値創出 デザイン思考: 人間中心の問題解決アプローチ

これらを統合的に活用することで、真にユーザーに愛される製品・サービスの実現が可能になります。継続的な学習と実践を通じて、より効果的なHCDプロセスを構築していきましょう。

参考資料


問題集 解答

問題1:B - UXは利用前から利用後までの包括的な体験を指し、ユーザビリティ(使いやすさ)はその重要な構成要素の一つです。

問題2:B - ISO 9241-11では、ユーザビリティを「有効性(Effectiveness)・効率性(Efficiency)・満足度(Satisfaction)」の3要素で定義しています。

問題3:C - 「共感」フェーズは、ユーザーの行動・思考・感情を理解するためのユーザー調査活動が中心となります。

問題4:D - デザイン思考の「検証」はユーザーテストや評価活動であり、HCDの「要求事項に照らした設計の評価」プロセスに対応します。

問題5:C - ブランド認知度はUXの範囲(利用前の体験)に含まれますが、ユーザビリティの直接的な評価指標ではありません。

問題6:B - SUSは10項目の質問によってユーザーの主観的なシステム評価を数値化する標準的な手法です。

問題7:B - 「購入手続きが複雑」は操作の効率性や学習しやすさの問題であり、ユーザビリティの改善が必要です。

問題8:D - ユーザビリティテストは設計された解決策が要求事項を満たしているかを検証する評価活動です。

問題9:B - デザイン思考は、HCDの4つのプロセスを効果的に実行するためのマインドセットと方法論として機能します。

問題10:C - UXは利用の全体験を対象とするため、ユーザビリティ(利用中の使いやすさ)以外の要素も総合的に考慮する必要があります。


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