HCD(人間中心設計)を効果的に実践するためには、「誰のために設計するのか」を正確に理解することが不可欠です。本記事では、1次ユーザー、2次ユーザー、間接ユーザー、広義のユーザーという4つの分類を体系的に解説し、実践での活用方法を詳しく説明します。
ユーザーを適切に分類することで、限られたリソースを最適に配分し、各ユーザーグループに最大の価値を提供できます。曖昧な「ユーザー」という概念では、誰にとっても中途半端な設計になるリスクがあります。
国際規格ISO 9241-210の「利用状況の理解と明示」プロセスでは、システムに関わるすべての関係者の理解が求められています。ユーザー分類は、この要求を体系的に満たすための重要な手法です。
1次ユーザーはシステムの主要な利用者であり、最も頻繁にシステムを使用してその主目的を達成する人です。
特徴:
- 最高頻度での利用
- システムの中核機能を使用
- 主要なタスクを実行
- 設計の最優先対象
ECサイトの場合:
医療システムの場合:
営業支援システムの場合:
1次ユーザーはユーザビリティ評価の主要対象となり、ペルソナ設計の中心に据えられます。彼らのタスク効率と満足度が、システム全体の成功を大きく左右します。
2次ユーザーは時折システムを使用する人で、1次ユーザーをサポートする役割を担います。利用頻度は低いものの、システム運用において重要な存在です。
特徴:
- 低〜中頻度での利用
- 特定機能のみを使用
- サポート・管理業務が中心
- 専門的な要求を持つ
ECサイトの場合:
医療システムの場合:
営業支援システムの場合:
2次ユーザーには効率性重視のインターフェースと適切な権限管理が重要です。専門業務に特化した機能要求を持つことが多く、操作の正確性と迅速性が求められます。
間接ユーザーはシステムを直接操作しないものの、その結果や影響を受ける人々です。システムの価値や制約を理解する上で重要な視点を提供します。
受益者型:
影響受容者型:
情報利用者型:
1次ユーザー: 受講生
2次ユーザー: 教師、システム管理者
間接ユーザー:
- 保護者(学習進捗の確認)
- 学校管理者(教育効果の評価)
- 教育委員会(政策判断への活用)
- 地域社会(教育水準の向上)
間接ユーザーの要求は主に非機能要求として現れます。プライバシー保護、データ品質、社会的責任などの観点から設計制約を与えることが多くあります。
広義のユーザーは、システムエコシステム全体に関わるすべての人を指す最も包括的な概念です。持続可能で社会に受け入れられるシステム設計には、この視点が不可欠です。
広義のユーザー =
直接ユーザー(1次・2次)
+ 間接ユーザー
+ その他のステークホルダー
├── 意思決定者(経営陣、政策立案者)
├── 規制当局(監督機関、認定機関)
├── 投資家・出資者
├── 地域社会・コミュニティ
├── 競合他社
└── 将来の利用者
広義のユーザーを考慮することで:
【影響度×関与度マトリックス】
| 高関与 | 低関与
影響度 高 | A | B
影響度 低 | C | D
A: 1次ユーザー(最優先)
B: 重要な間接ユーザー
C: 2次ユーザー
D: その他のステークホルダー
1次ユーザー: 機能要求の70-80%
2次ユーザー: 専門機能と管理要求
間接ユーザー: 非機能要求
広義のユーザー: 社会的責任要求
1次ユーザー評価指標:
□ タスク完了率: 90%以上
□ 平均タスク時間: 前版比20%短縮
□ SUSスコア: 70以上
□ ユーザー満足度: 4.0/5.0以上
2次ユーザー評価指標:
□ 専門業務の効率性
□ データ処理の正確性
□ 管理機能の使いやすさ
間接ユーザー評価指標:
□ データ品質の維持
□ プライバシー保護の徹底
□ システム可用性: 99.9%以上
1次ユーザー:
2次ユーザー:
間接ユーザー:
広義のユーザー:
1次ユーザー重視の設計:
- 直感的な操作フロー
- 高速なデータ入力機能
- 必要情報の一覧表示
2次ユーザー向けの設計:
- 詳細な権限管理機能
- 専門的な分析ツール
- 効率的なバッチ処理
間接ユーザー配慮の設計:
- 厳格なアクセス制御
- 監査ログの完全記録
- データ品質の自動チェック
広義ユーザー対応の設計:
- 標準規格への準拠
- 相互運用性の確保
- 長期的なデータ保存
問題: 異なるユーザー分類間での要求の矛盾
解決策:
問題: 直接ユーザーのみに焦点を当てた設計
解決策:
問題: すべてのユーザーに対応するリソース不足
解決策:
問題1 1次ユーザー(プライマリーユーザー)の定義として最も適切なものはどれか。
A. システムを購入する人
B. システムを最も頻繁に使用し、主目的を達成する人
C. システムを管理する人
D. システムに最も詳しい人
問題2 2次ユーザー(セカンダリーユーザー)の特徴として正しくないものはどれか。
A. 利用頻度が1次ユーザーより低い
B. 1次ユーザーをサポートする役割
C. システムの主目的を達成する
D. 特定の機能のみを使用することが多い
問題3 間接ユーザーの説明として最も適切なものはどれか。
A. システムを直接操作しないが、その結果や影響を受ける人
B. システムを時々使用する人
C. システムの管理権限を持つ人
D. システムの開発に関わった人
問題4 ECサイトにおけるユーザー分類で、「カスタマーサポート担当者」は何に該当するか。
A. 1次ユーザー
B. 2次ユーザー
C. 間接ユーザー
D. 広義のユーザーのみ
問題5 医療システムにおいて「患者」はどのユーザー分類に該当するか。
A. 1次ユーザー
B. 2次ユーザー
C. 間接ユーザー
D. 対象外
問題6 広義のユーザーに含まれる要素として適切でないものはどれか。
A. 直接ユーザー(1次・2次)
B. 間接ユーザー
C. 競合他社
D. システム開発者
問題7 1次ユーザーの要求事項として最も重視すべきものはどれか。
A. 管理機能の充実
B. 高度な分析機能
C. 核心的タスクの効率性
D. システムの技術的性能
問題8 間接ユーザーの要求が主に影響する設計要素はどれか。
A. ユーザーインターフェースのデザイン
B. 非機能要求(セキュリティ、プライバシー等)
C. 基本的な操作フロー
D. 画面レイアウト
問題9 ユーザー分類に基づく優先順位付けで、影響度が高く関与度も高いユーザーはどれか。
A. 1次ユーザー
B. 2次ユーザー
C. 間接ユーザー
D. 広義のユーザー全体
問題10 ISO 9241-210の「利用状況の理解と明示」プロセスにおいて、ユーザー分類が果たす役割として最も適切なものはどれか。
A. システムの技術仕様を決定する
B. 開発コストを算出する
C. システムに関わるすべての関係者を体系的に理解する
D. プロジェクトスケジュールを作成する
問題11 HCDプロセスにおいて、2次ユーザーの要求事項を収集する最も適切なタイミングはいつか。
A. プロジェクト開始前のみ
B. 1次ユーザーの要求事項確定後
C. システム完成後
D. 1次ユーザーと並行して継続的に
問題12 広義のユーザーを考慮した設計の利点として最も重要なものはどれか。
A. 開発期間の短縮
B. 開発コストの削減
C. システムの社会的持続可能性の向上
D. 技術的複雑さの軽減
□ 1次ユーザーを明確に特定できているか
□ 2次ユーザーの役割と要求を整理できているか
□ 間接ユーザーの影響範囲を把握できているか
□ 広義のユーザーを含むステークホルダーマップを作成したか
□ 各ユーザー分類の優先順位を設定したか
□ ユーザー分類に基づく評価指標を定義したか
□ 継続的なユーザー関係の見直しプロセスがあるか
HCDにおけるユーザー分類は、効果的な設計判断の基盤となる重要な概念です。1次ユーザーを中心としながらも、2次ユーザー、間接ユーザー、さらには広義のユーザーまで考慮することで、真に価値のあるシステムを設計できます。
成功のポイント:
この体系的なアプローチにより、すべてのステークホルダーにとって価値のあるシステムの実現が可能になります。
問題1:B - 1次ユーザーは「システムを最も頻繁に使用し、主目的を達成する人」として定義されます。
問題2:C - システムの主目的を達成するのは1次ユーザーの特徴であり、2次ユーザーは主にサポート機能を担います。
問題3:A - 間接ユーザーは「システムを直接操作しないが、その結果や影響を受ける人」として定義されます。
問題4:B - カスタマーサポート担当者は、顧客(1次ユーザー)をサポートする役割を担う2次ユーザーです。
問題5:C - 患者は医療システムを直接操作せず、診療の質向上という結果を受ける間接ユーザーです。
問題6:D - システム開発者は広義のユーザーには含まれません。ユーザーは利用側の観点で定義されます。
問題7:C - 1次ユーザーにとって最も重要なのは、システムの主目的である核心的タスクの効率性です。
問題8:B - 間接ユーザーの要求は主に非機能要求(セキュリティ、プライバシー、データ品質等)として現れます。
問題9:A - 影響度が高く関与度も高いのは、システムの主要利用者である1次ユーザーです。
問題10:C - ユーザー分類の主要な役割は、システムに関わるすべての関係者を体系的に理解することです。
問題11:D - HCDの基本原則により、すべてのユーザーは設計プロセス全体を通じて継続的に関与すべきです。
問題12:C - 広義のユーザーを考慮する最大の利点は、システムの社会的持続可能性の向上です。
この記事はISO 9241-210:2019およびHCD基礎検定の内容を基準としています。